「わたしを忘れないで」
そう私の自意識が叫ぶ、はちきれんばかりの胸に千切れそうなくらいの切実さを抱えて。
人は忘れていく生き物だと誰かがいう。
一瞬で消え去る光のように忘れていくもの。
確かに、もう何年も会っていない地元の同級生の顔と名前なんてもう何人も一致しないだろう、今日一瞬電車ですれ違ったあの人の顔も、あの日誰かが私に言った何かも、あんなにも狂おしいほどに焦がれた恋も、泣き明かした夜も、私は忘れていく。
私だけじゃない、あなたもあの子もみんな忘れていく、私を、何かを。
一方でこすってもこすってもインクのように消えない、忘れられないものもある。
一瞬あの人が私にむけた目、突き刺さったままの言葉、恥ずかしい出来事、忘れたくてもどうしても忘れられない、忘れたと思ってもいきなりフラッシュバックのように、私を嘲笑うかのように、目の前に現れる。
それはやがて太陽の光にさらされたTシャツのように色褪せてはいくけれど、その面影は残ったまま、虎視眈々と現れるタイミングを伺っている。
忘れていくものと忘れられないもののあいだで、私の身体にあるいびつな交わりの中で、それでも狂おしいほどに生きることを諦められない私がいる。
そして、我儘だとはわかっていても、私を忘れないで欲しいという欲望を抱いている。
私は叫んでいたい。何と言われようが構わない。境界線を越えたい、ずっと手を伸ばし続けていたい、私のことが嫌いでもいい、そこに何かが残るのなら。
「わたしを忘れないで」とあなたにすがりついていたい。
何かを誰かに残すために立って、歌って、生きているのだ、きっと。